三級シクロプロピルシリルエーテルとdiethylaminosulfur trifluoride(DAST)との反応に関しては、シクロプロパン環上に様々な置換基を持つ各種三級シクロプロピルシリルエーテルを基質として用いて反応を検討した。その結果、一般には開環フッ素化反応が進行してアリル位フッ素化体を与えるが、1位に強力な電子供与基が存在する場合や、2位に電子吸引基が存在する場合には開環が起こらず、フロロシクロプロパン体が生成することが判明した。しかし1位に強力な電子供与基が存在しても、2位に電子供与基があると開環フッ素化反応が進行することも判明した。 シクロプロパン環上の電子密度が、開環するか否かに密接に関わっていると考えられるので、現在、計算化学等の手法を用いて理論的考察を行なっているところである。 この反応で得られるアリル位フッ素化体に対して、N-プロモスクシイミドを用いるラジカル的臭素化反応を施したところ、α-プロモ-α-フロロアリル体が効率良く得られた。このα-プロモ-α-フロロアリル体は金属インジウムを用いてアルデヒドとカップリングさせると、フロロホモアリルアルコール体が収率良く得られることが判明し、含フッ素合成素子として応用できることが判った。 環状ケトキシムとDASTとの反応に関しては、オキシムのα位にチオフェニル基を持つ基質との反応によって得られるα-フロロスルフィド体をスルホキシドへと酸化した後に、熱分解させることによりフロロオレフィン体へと導くことに成功した。 また環状ケトキシムの開環フッ素化によるフッ素化ニトリル体への変換反応は、フッ化硫黄誘導体以外の試薬(石川試薬など)ではほとんど進行しないことも見いだした。
|