研究概要 |
申請者は、これまでジエン鉄カルボニル錯体の鉄カルボニル部が非常に高い不斉誘起能を有する優れた不斉補助基となりうることを明らかにすると共に光学活性なジエン鉄カルボニル錯体の優れた大量合成法を確立し報告してきた。今回は、容易に入手可能となったジエン鉄カルボニル錯体を出発原料として多岐に渡る生理活性を有する3員環含有不飽和脂肪酸誘導体(ハリコラクトン、コンスタノラクトン)の全合成を目指した。 まず、プロキラルなジアルデヒドジエン鉄錯体に対する不斉アルキル化反応により合成した光学活性な2級アルコール錯体を3行程にてアリルアルコールに誘導後、四酸化オスミウム酸化を行うことにより、目的とするβ-syn-トリオール錯体を立体選択的に合成した(β-体/α-体=10/1)。次に、ジエン錯体に隣接する2つの水酸基を識別するためには、ジオールをクロロアセチル基に変換後、Me2AlSPhと反応させることにより位置および立体選択的にチオフェニル基の導入が行なえることを明らかにした。さらに脱錯体、酸化により得られたスルホキシドの1,3-転位により目的とするビスアリリックアルコールを高収率で合成した。最後に、立体選択的な3員環導入反応の検討を行った。種々検討した結果、末端の水酸基のみを保護することなく、3当量のジエチル亜鉛と4当量のジヨードメタンを塩化メチレン中-20度Cで作用させることにより、立体選択的なモノシクロプロパン化がまずまずの収率で進行することが分かった。以上述べたように、目的とするハリコラクトンやコンスタノラクトンに共通の部分構造である5つの不斉炭素を有するモノシクロプロパン体の立体選択的な不斉合成ルートの確立に成功した。
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