リポシドマイシン類(1)は、Streptomyces griseosporeusの生産するヌクレオシド抗生物質である。バクテリアのペプチドグリカンの生合成をリピドサイクルの初発段階で選択的に阻害する新しい作用機作の新規抗菌剤として、結核菌、多剤耐性菌、日和見感染菌等に対する大きな治療効果が期待されている。本研究は、ペプチドグリカンの新しい生合成阻害剤の開発と1の生理活性機構解明を念頭に全合成を行うこととした。 今年度は、昨年度の研究成果を踏まえ、ジアゼパノン環部がより多官能基された標的化合物を設定し、この合成を検討した。この際、酒石酸エステルから得られる光学的に純粋な2種のアミノアルコールを出発原料に、アミン体並びにカルボン酸へと誘導し、両者のカップリング、分子内イミンの形成、還元を経てジアゼパノン環部を合成した。窒素官能基のメチル化に成功したが、最終行程での一級水酸基のカルボキシル基への変換(酸化)が行なえず、合成ルートを変更を余儀なくされた。現在、カルボキシル基の導入をジアゼパノン環構築以前に行うべく、保護したカルボキシル基を有するカップリング前駆体の合成を検討している。 また、我々の開発した「含フッ素イミダートを脱離基するグリコシル化」により1のアミノ糖の導入を行うべく、アミノ糖部分に相当する含フッ素イミダートの調整を行った。含フッ素イミダートによるグリコシル化を、ダイアセトングルコースやethyl(R)-2-hydroxy-4-phenylbutyrateを用いて検討し、70%を超える収率で反応が進行することを確認した。今後、ジアゼパノン環構造を有する基質に対するグリコシル化を検討する予定である。 現在までの研究で1の合成に至る問題点が徐々に整理されてきており、今後それぞれのフラグメントに最適な保護基を選択しカップリング反応の順番を慎重に決定しながら、全合成を完了させる予定である。
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