サイトカインの新規デリバリーシステムを構築するためには、その非線形体内動態を明らかにすることが必須である。本年度は、肝疾患治療薬としての開発が期待されている肝細胞増殖因子(HGF)、すでに臨床応用のなされているエリスロポエチン(EPO)について非線形体内動態を解析し、そのメカニズムを明らかにした。すなわち両者ともに投与量が上昇するにつれ、受容体介在性エンドサイトーシスの飽和にいよる消失効率の遅延が観察された。また、血中消失を担う主な臓器は標的臓器(前者は肝臓、後者は骨髄)であった。HGFについては投与量をさらに上昇させると薬効領域を越えたあたりから、ヘパラン硫酸を介するエンドサイトーシスの飽和と示唆される第二段階の消失効率の遅延が観察された。またEPOについては、血中に投与した時の抗体の産生と体内動態への影響の評価を試み、抗体産生が少ないケースでは血中滞留性の上昇が観察され、多いケースでは抗体との複合体形成による消失効率の促進に伴う大幅なクリアランスの増加が見られた。次に、HGFの新規デリバリーシステムとしてプロタミンの前投与を考案しその有効性を評価した。その結果、HGFの血中滞留性を増加させ、しかもHGFの生物活性を直接増強させる効果をも併せ持つ極めて有効なデリバリーシステムであることが明らかとなった。プロタミン前投与によりHGF単独の約5倍の薬理効果が発揮されることが、実験的肝障害モデルラットを用いた解析から明らかとなった。プロタミンの前投与による血中滞留性の上昇は、ヘパラン硫酸をブロックすることによるエンドサイトーシスの阻害によることが示唆された。次年度は本デリバリーシステムのさらなる有効性の評価と、直接効果のメカニズム解明が必須である。
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