皮膚は全身治療を目的とした薬物投与経路の一つとして注目を集めているが、これまで経皮吸収製剤の評価は、in vitroにおける定常状態吸収速度の測定やin vivo薬物投与後の血中濃度あるいは尿中排泄測定によって行われてきたにすぎず、薬物治療効果および副作用と密接に関連する皮膚内薬物挙動に関してはほとんど議論されていない。こうした観点から、申請者は、Fickの拡散式を基本に、薬物の皮膚内代謝も含めた吸収動態解析モデルを構築し、薬物の経皮吸収に関して総合的な議論を可能とする方法論を開発した。まず、抗ウィルス薬アシクロビルに対して、その脂肪酸エステルプロドラッグを合成し、皮膚内代謝性薬物のモデルとした。これらのプロドラッグの皮膚透過をin vitro実験法により測定し、その透過パターンを拡散モデルに基づいて解析した。解析に用いた吸収動態モデルでは、皮膚の解剖学的・生理学的特性を考慮し、皮膚が角質層とそれ以下の二層から成ると仮定した上で、角質層には極性経路と非極性経路が並列に存在すると考えた皮膚拡散モデルに対して、さらに角質層以下の層において一次速度式に従った薬物代謝が起こることを仮定した。その結果、脂肪酸側鎖の長さが長くなるにつれて、角質層の非極性経路への分配が増大すること、および皮膚内代謝速度が大きくなることが明らかとなった。この側鎖の長さの増大に伴う代謝速度の増大は、皮膚ホモジネートを用いた代謝実験でも確認された。また、吸収促進剤1-geranylazacycloheptan-2-one(GACH)の存在下におけるプロドラッグの吸収動態をモデル解析した結果、GACHはプロドラッグの角質層非極性経路への分配を増大させることにより皮膚透過を促進することが示され、これは非代謝性薬物を用いた過去の研究結果ともよく対応するものであった。
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