薬物輸送体としてのリポソームの水和過程の研究

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09771955
• 研究機関: 神戸薬科大学
• 研究代表者: 長谷川 健 神戸薬科大学, 薬学部, 助手 (30258123)
• キーワード: リポソーム / 蛍光寿命 / 二糖類 / 吸着 / 展開単分子膜 / DPPC / sucrose / DPH

研究概要

本年度は、蛍光寿命解析法によるリポソームの膜の動的解析と、展開単分子膜を用いた界面化学的手法を組み合わせて、L-α-dipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC)脂質薄膜へのsucrose分子の水中での吸着機構を詳しく検討した。
DPPC脂質膜は、生体膜のモデル薄膜として従来から研究に用いられてきたが、単分子膜に関しては水面上で展開した後、圧縮の程度を制御するにとどまり、生体膜の様子をどの程度モデル化できているのかはっきりしなかった。本研究では、展開した薄膜を一度相転移点以下まで加熱して膜を水和させた後、室温に戻してsucroseとの相互作用を検討した。その結果、水和させた脂質膜と水和させていない膜とでは、sucroseの吸着の仕方に全く異なる特徴のあることがわかった。水和膜では、相互作用しているsucrose溶液の濃度が上がるに連れて膜への浸透量が増すのに対し、非水和型では、濃度とともに逆に浸透量が減少した。一方、これに対応するリポソームを調製し、DPHを用いた蛍光寿命と蛍光異方性の時間変化の解析を行った。その結果、リポソームへの等の吸着機構は、水和型の展開単分子膜への吸着機構と共通するものがあり、水和型の展開単分子膜の優位性が認められた。以上の結果は、以下の論文として公表できた。
J.Phys.Chem.B101(34),6701-6706(1997).
また、このほか生体薄膜を分光学的に研究する上で、薄膜支持基板がスペクトルに与える複雑な影響を光学的に検討し、公表した。これは、基板内部での多重反射が干渉を伴わずに出力されるために起こる現象で、定性的にも具体的に明らかにされたのはこれが初めてであり、フーリエ変換分光学国際会議での招待講演ともなった。(アメリカジョージア州)。

研究成果

• [文献書誌] T.Hasegawa, H.Kawato, M.Toudou, J.Nishijo: "Thermally Hydrated DPPC Langmuir Film : A Trial Application to the Analysis of Interaction of Sucrose with DPPC Liposome" Journal of Physical Chemistry B. 101. 6701-6706 (1997)
• [文献書誌] T.Hasegawa, J.Nishijo, Y.Kobayashi, J.Umemura: "Effect of Substrates on Infrared External Reflection Spectra of Langmuir-Blodgett Films" Bulletin of Chemcal Society of Japan. 70. 525-533 (1997)
• [文献書誌] 長谷川健: "機能性高分子の新しい分子解析法" ファルマシア(トピックス). 33. 193-194 (1997)
• [文献書誌] 長谷川健: "赤外反射分光法による表面分析-非金属基板上での有機超薄膜の分子配向解析" 化学と工業(化学のフロンティア'98). 51. 151-154 (1998)
• [文献書誌] T.Hasegawa, D.Myrzakozha, T.Imae, Y.Ozaki: "Quantitative Analysis of Molecular Orientation of Structuraly Heterogeneous Langmuir-Blodgett Films by Infrared Reflection Absorption Spectra" Applied Physics Letters. (印刷中). (1998)
• [文献書誌] 長谷川健: "実用分光法シリーズ第一巻・赤外分光法(尾崎幸洋・編著)" アイピーシー出版(印刷中), (1998)
• [文献書誌] T.Hasegawa, E.Okamura J.Umemura: "Trends in Analytical BioSciences" Elsevier (in press), (1998)