近年、様々な組織においてレニン-アンジオテンシン系の各コンポーネントの存在が報告されており、従来から知られている全身性のものとは異なった調節を受けていると考えられる、局所レニン-アンジオテンシン系が注目されている。我々はこれまでにヒト本態性高血圧症のモデル動物である高血圧自然発症ラット(SHR)を用いて、アンジオテンシン変換酵素阻害薬経口投与の腎局所レニン-アンジオテンシン系に対する影響を検討した。その結果、腎組織中のアンジオテンシンIIの濃度は血圧に比例して低下するが、血漿中のアンジオテンシンII濃度は変化しない事を見い出した。本年度は、変換酵素阻害薬のより選択的な腎臓内へ投与による血圧および腎組織レニン-アンジオテンシン系への影響の検討をおこなった。 高血圧発症進展期である13-14週令のSHRに、アンジオテンシン変換酵素阻害薬エナラプリルを7日間腎臓内投与した。エナラプリル3mg/kg/day投与により、投与前値140mmHgから約30mmHgの降圧が観察され、また0.3mg/kg/day投与によっても有意な降圧が観察された。この時、腎組織中のアンジオテンシンIIの濃度は血圧に比例して低下したが、血漿中のアンジオテンシンII濃度は変化しなかった。またアンジオテンシンI濃度には変化は観察されなかった。これらの結果は、エナラプリルの降圧効果には腎局所のアンジオテンシンII量の減少が関与していることを示唆している。 今後、異なる種類の実験高血圧モデルを用いるなどし、高血圧症における腎局所レニン-アンジオテンシン系の役割をさらに検討していく予定である。
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