非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)による肝障害発現機序の解明を目的として、ラット遊離肝細胞を用いて、肝細胞障害発現に伴う生化学的パラメータの変動を調べた結果、障害発現の原因物質と発現要因に関して以下の知見を得た。 1) ジクロフェナック(DCF)の肝細胞障害性における活性代謝物の関与: DCFから生じ、生体高分子と共有結合する化学的に反応性に富んだ代謝物としてアシルグルクロニドとキノン体が報告されている。これら活性代謝物の生成酵素であるUDP-グルクロン酸抱合酵素およびシトクロムP450の阻害下においてもDCFの肝細胞障害性が認められたことから、既知の活性代謝物ではなく、親化合物自体が毒性を発現することが明らかになった。 2) NSAIDのATP減少作用と肝細胞障害性との関連: これまでに18種類のNSAIDを用いて肝細胞障害性を検討し、化学構造との関係を明らかにしたが、さらにこれらNSAIDの細胞内ATP含量に及ぼす影響を検討した結果、障害性を有するNSAIDは肝細胞内ATPを顕著に減少させることが判明した。また、このATP枯渇作用の機構を調べるため、ラット肝単離ミトコンドリア画分を用いて呼吸活性に及ぼすNSAIDの影響を調べたところ、ATP枯渇作用を示したNSAIDやジフェニルアミンは濃度依存的にstate3呼吸を抑制し、state4呼吸を促進した。即ち、これらの化合物はミトコンドリアの酸化的リン酸化と電子伝達を脱共役することが示された。さらに、ATPの加水分解を阻害した条件下、解糖系の基質であるフルクトースを添加することによって細胞内ATP含量を回復させたところ、肝細胞障害は防御されたことから、脱共役作用に基づく肝細胞内ATPの減少は肝細胞障害の直接的な要因となることが明らかになった。
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