先に申請者の研究グループは、レチノイン酸によるヒトHL-60細胞の好中球への分化過程でエクト型NAD分解酵素(NADase)が細胞表層に誘導され、この酵素活性がリンパ球表面抗原のCD38によることを明らかにした。本研究では、細胞表層上の新しい機能分子と期待されるCD38及びその関連分子に関わる細胞内シグナル伝達機構、酵素化学的特性、及び転写制御機構などを検討し、以下の知見を得た。1、CD38の基質特異性について検討し、CD38はNAD以外に、ニコチンアミドを有するNMNなどの多様な化合物のN-グリコシド結合を切断することが示された。2、ラットCD38を認識するポリクローナル抗体を作製して中枢組織での局在を解析した結果、CD38はアストロ細胞に強く発現していた。さらに共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察から、細胞表層のCD38は酵素反応の進行にともない何らかの化学修飾を受けて不活性化されることが明らかにされた。3、CD38の反応産物のADP-riboseは、老化への関与が指摘されている翻訳御修飾であるadvanced glycation end products(AGE)化のよい供与体となることが示された。4、糖鎖修飾を受けたCD38と結合する50-kDaタンパク質をリンパ組織に同定し、CD38のNADase活性がレクチンとの結合により阻害されることを見出した。5、ヒトCD38遺伝子の遺伝子発現について解析し、核内レチノイン酸受容体のRAR(α)/RXRが結合する応答配列が第1イントロン上に存在することを見出した。6、構造上CD38に類似したPC-1にはホスホジエステラーゼ活性が存在するが、PC-1 mRNAの翻訳産物から異なるプロセッシングによって、膜貫通型および分泌型酵素が産生する可能性が示された。
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