本研究の目的は、末梢および中枢神経系における痒みに関連する因子の検索を行い、アトピー性皮膚炎に見られる慢性的な激しい痒みの機序を明らかにし、最終的にはその痒みの制御方法を検討することにある。前年度の研究成果により、自然発症的にアトピー性皮膚炎に類似した皮膚炎を呈するNCマウスが痒み関連行動としての引っ掻き動作を慢性的に示すことと、大脳皮質内の転写因子MEF2Cが増加が痒みの感覚あるいは知覚の形成に関連していることが明らかになった。そこで、アトピー性皮膚炎の痒みを抑制する新たな薬物探索を今年度の目的とし、ターゲットとして種々の和漢薬に着目した。 ヒトのそう痒症に処方される漢方方剤のうち22種を選び、それらの煎液エキスの抗そう痒活性をpreliminaryに且つ効率的にスクリーニングするために、substance PをICRマウスに皮内投与して惹起される一過性の掻き動作をモデルとして検討した。各漢方方剤エキスを200mg/kgの用量で経口投与した結果、白虎加人参湯が有意に掻き動作を抑制した他、加味逍遥散、当帰飲子、荊芥連翹湯、温経湯も抑制傾向を示した。次に、これら5方剤の200mg/kgでの経口投与による、NCマウスの掻き動作に対する効果を調べたところ、白虎加人参湯と加味逍遥散がそれぞれ対照群の53.8%、60.7%にまで抑制した。この2方剤の投与による、大脳皮質内のMEF2CmRNAの変化をRT-PCR法で検討したが、いずれも場合も変化は認められなかった。 ヒトのそう痒症に対する効能が知られる生薬37種を選び、それらのメタノール抽出エキスの抗そう痒活性を、substance P誘発の痒みモデルに200mg/kgの用量で経口投与し検討したところ、敗醤根、蛇床子、連翹、升麻、玄参に有意な痒み抑制効果が認められた。現在、これらのエキスを更に分画し、抗そう痒活性成分の同定を行っている。
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