研究概要 |
胎盤型グルタチオントランスフェラーゼ(GST-P)は肝化学発癌過程に発現が上昇する腫瘍マ-力-である。GST-P遺伝子に存在する発現を負に制御するサイレンサーには複数のシスエレメントが存在し、3種類の転写因子(Silencer Factor-A,-B,-C:SF-A,-B,-C)が結合すること、また、SF-Aはnuclear factor 1(NF1)ファミリー、SF-BはCCAAT/enhancer binding protein(C/EBP)ファミリーであることをこれまでに明らかにしている。 正常肝において、NF1ファミリーの中で最も多く発現しているNF1-Aの転写調節領域の解析を酵母の転写因子との融合タンパク質を細胞に発現させる系を用いて行った。その結果、プロリンとセリンを多く含む約100アミノ酸からなる転写抑制領域の存在を明らかにした。また、そのN末端側にはセリンとグリシンに富む転写抑制作用を増強させる領域が存在した。この転写抑制領域は、GST-P遺伝子以外のヒトメタロチオネイン遺伝子やC/EBPδ遺伝子のプロモーター活性も抑制した。この抑制作用の機構として、基本転写因子との相互作用が予想されたが、これらの転写抑制領域は、TATA-box binding proteinを含む基本転写因子と結合しないことも明らかとなった。現在、酵母two-hybrid法を用いて、転写抑制領域に作用する因子をスクリーニング中である。 また、腫瘍マーカー遺伝子の発現を負に制御する因子自身の発現制御機構を明らかにするために、NF1-A遺伝子を単離し、その遺伝子構造を明らかにした。その結果、NF1-A遺伝子は11個のエキソンを含む70kb以上であり、プロモーター領域にTATA boxが存在せず、GC含量は80%以上であることも明らかとなった。今後は、NF1-A遺伝子の発現制御領域を詳細に解析する予定である。
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