HMG(3-hydroxy-3-methylglutaryl)-CoA還元酵素阻害薬により、心筋細胞のメバロン酸生合成が抑制されると種々生体成分の炭素側鎖(イソプレニル基、ファルネシル基等)が不足し、細胞成長因子受容体と共役する細胞内情報伝達系蛋白質の細胞膜への結合(アンカリング)が損なわれる。生後直後から生後6日目までブタに脂溶性のシンバスタチンおよびプラバスタチンを投与した前年度の実験で、シンバスタチンが左心室自由壁の生理的重量増加を抑制した。今年度、脂溶性のアトルバスタチンを生後直後から生後6日目までブタに投与して、心臓の生理的成長に対する影響を検討した。その結果、シンバスタチン投与による結果と同様に、アトルバスタチン投与により総RNAおよび総蛋白量の減少および、左心室自由壁の生理的重量増加が抑制された。このことから、左室自由壁の生理的重量増加の抑制は、シンバスタチン特有の作用ではなく、心筋細胞膜を透過する脂溶性のHM-CoA還元酵素阻害薬の共通の作用によるものであることが示唆される。 細胞成長因子が刺激を受けるとRas蛋白と共役し、シグナルカスケードを経て細胞成長が起きる。このシグナルカスケードの一つであるMAP kinase活性におけるアトルバスタチン、シンバスタチンおよびプラバスタチン投与による影響を検討した。その結果、脂溶性のアトルバスタチンおよびシンバスタチンは、いずれもMAP kinase活性を有意に低下させたのに対し、水溶性のプラバスタチン投与による影響は認められなっかた。以上の結果から、脂溶性のHMG-CoA還元酵素阻害薬による心筋細胞内でのイソプレニル基合成抑制は、Ras蛋白の機能を抑制しシグナルカスケードでのMAP kinase活性の低下を介して、新生児期の心筋細胞の生理的成長を抑制することが示唆される。
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