本研究の目的は、細胞特異的遺伝子導入法である人工抗体型イムノジーン法の臨床での有効性・安全性を高め、早急な実現を目指すことである。本年度においてそのために必要な以下の3項目を達成した。(1)遺伝子導入効率を上げるための人工抗体型イムノジーンの改良、(2)大量産生・精製技術の確立、(3)免疫原性をなくすためにマウス型からヒト型への転換である。 (1)(2)昨年度の研究成果から、C末のDNA結合ドメインの8リジン残基では、酵母でも分泌効率が悪く、培養液中で不安定であり、またDNA結合能が不十分と考えられた。そのため、必要なアミノ酸の長さ・構成を検討し、8種類の一本鎖Fv抗体遺伝子を作製した。その中で、もっともDNAとの複合体形成に有利な構成であるアスパラギン酸20残基またはリジン20残基をC末に融合した一本鎖Fv抗体遺伝子の発現に成功した。それらは大腸菌発現系では発現不可能であったが、酵母発現系でしかも0.5M-1.0MのNaCl存在下でのみ安定に分泌可能であった。また、ファーメンテイションを導入し高密度培養後、一段階目のイオン交換クロマトグラフィによる精製は0.25M NaCl存在下で行えば効率的であることが判明した。(3)一本鎖Fv抗体の免疫原性をなくすためにフレームワーク領域のマウス型からヒト型への転換を行った。まず、データベース上でもっとも類似したヒトIgGのフレームワーク配列を検索し、抗原認識部位の高次構造の維持に重要だと考えられるアミノ酸は置換しないようにヒト型Fv抗体遺伝子を設計した。オリゴDNAを用いヒト型Fv抗体遺伝子を全合成し、大腸菌で発現させヒト型Fv抗体を精製した。ELISAによってEGFレセプターに対する結合力を測定すると、原型のマウス型抗体とほぼ同等であった。以上により、人工抗体型イムノジーン法の臨床応用に向けた基盤は完成したと考えられる。
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