GSH低下剤フォロンによるHO-1遺伝子発現は転写因子AP-1が関与しているが、本年度はフォロンによるGSH低下がこのAP-1のDNA結合活性上昇に寄与しているのかについてラットを用いて検討した。GSH合成阻害剤であるBSO前投与は、フォロンにより生じたラット肝臓のGSH減少をさらに減少させた。この時、HO-1とc-jun遺伝子発現およびAP-1結合活性はフォロン単独投与の場合より増強されていた。次にフォロンによるGSH減少緩和の目的で、GSHイソプロピルエステル(GIP)を前投与して同様の検討をした。GIP前投与は、フォロンによる肝臓のGSH減少を緩和させた。この時、HO-1とc-jun遺伝子発現およびAP-1結合活性はフォロン単独投与の場合より減弱されていた。以上のことより、フォロンによるHO-1およびc-jun遺伝子発現は、本化合物により生じたGSH減少が転写因子AP-1のDNA結合活性を促進していることが明らかになった。次にAP-1の構成一因子であるJunタンパクのリン酸化(Ser73)に注目した。フォロンは、ラット肝臓においてリン酸化Junタンパク量を増加させた。BSOやGIPの前処置はこのフォロンによるリン酸化Junタンパク量をそれぞれ増強、減弱させた。この様に、フォロンによるGSH減少はJunタンパク質をリン酸化させることが明らかになったので、リン酸化酵素Jun N-Terminal Kinase(JNK)の活性を測定した。フォロン投与30分後よりわずかに活性上昇が認められ、2時間後には著しいJNK活性上昇が認められた。以上の結果、フォロンによるGSH低下はJNKへと細胞内シグナルが伝わり、Junタンパクリン酸化、AP-1結合活性上昇そしてターゲット遺伝子発現を導くことが明らかになった。HO-1は、酸化的ストレスが原因と考えられているような様々な病態とも関連している酵素である。そこで来年度は病態におけるHO-1の役割について検討を進める。
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