脳障害時におけるミクログリアおよびアストロサイトの機能変化の解析

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09772007
• 研究機関: 京都薬科大学
• 研究代表者: 北村 佳久 京都薬科大学, 薬学部・病態生理学, 助教授 (60195295)
• キーワード: ミクログリア / アストロサイト / アルツハイマー病 / 転写因子 / NF-κB / STAT1 / p53蛋白質 / NO合成酵素(NOS)

研究概要

アルツハイマー病は、著しい痴呆を伴う神経変性疾患である。この剖検脳では著しい神経細胞死が認められるが、この時脳の免疫機能を有するミクログリアおよびアストロサイトなどのグリア細胞がどのように機能変化しているかは明らかにされていない。免疫細胞の活性化および誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)誘導に重要な役割を果たしている転写因子NF-κBおよびSTAT1はアルツハイマー病脳で有意に増加していた。しかし、私達が調べた6例のアルツハイマー病のうち、iNOS蛋白質の発現を認めたのは1例のみであった。他の5例のアルツハイマー病脳および対照群の6例の脳においては検出できなかった。一方、重度の痴呆を伴う後天性免疫不全症候群(エイズ)の脳ではiNOSの発現誘導が引き起こされると報告されている。これは、エイズ脳症ほど激しい炎症反応(グリア細胞の活性化)が起きないことを示唆している。最近、家族性アルツハイマー病に原因遺伝子として同定されたpresenillin-1(PS-1)遺伝子のプロモーター領域にSTAT1結合ドメイン配列が多数存在することが明らかとなり、アルツハイマー病脳におけるSTAT1の増加はPS-1の発現調節に関与している可能性が示唆される。一方、これまでグリア細胞は神経細胞に比べ細胞死に陥りにくいと考えられてきた。しかしながら、細胞周期の調節、DNAの修復および細胞死を調節しることが知られるp53蛋白質がアルツハイマー病脳においてグリア細胞で著しく発現していることが明らかとなった。アルツハイマー病など脳障害時には著しい酸化ストレスが発生することが知られている。これらのことを踏まえ、現在ミクログリアおよびアストロサイトが脳障害時になぜ神経細胞よりも障害耐性を示すのか、また酸化ストレスによるグリア細胞死の機構について詳細に解析中である。

研究成果

• [文献書誌] Yoshihisa Kitamura: "Changes of p53 in the brains of patients with Alzheimer's disease." Biochemical and Biophysical Research Communications. 232・2. 418-421 (1997)
• [文献書誌] Yoshihisa Kitamura: "Alteration of transcription factors NF-κB and STAT1 in Alzheimer's disease brains." Neuroscience Letters. 237・1. 17-20 (1997)
• [文献書誌] Yoshihisa Kitamura: "Inhibitory effects of talipexole and pramipexole on MPTP-induced dopamine reduction in the striatum of C57BL/6N mice." Japanese Journal of Pharmacology. 74・1. 51-57 (1997)
• [文献書誌] Yoshihisa Kitamura: "Possible involvement of rapamycin-sensitive pathway in Bcl-2 expression in human neuroblastoma SH-SY5Y cells." Japanese Journal of Pharmacology. 75・2. 195-198 (1997)
• [文献書誌] Wataru Kamoshima: "Possible involvement of ADP-ribosylation of particular enzymes in cell death induced by nitric oxide in human neuroblastoma cells." Neurochemistry International. 30・3. 305-311 (1997)
• [文献書誌] Yasuji Matsuoka: "In vivo hypoxia-induced neuronal damage with an increase of neuronal nitric oxide synthase immunoreactivity in hippocampus." Experimental Neurology. 146・1. 57-66 (1997)