著者は抗潰瘍薬レミノプラゾール(LMP)が胃上皮細胞に4種の蛋白質を誘導合成させることにより、細胞を障害耐性状態にすることを見出している。これらの蛋白質の単離を2次元電気泳動により試みたが、大量のサンプル作製が困難なことや発現量があまり多くないこともあり、今のところ成功に至っていない。一方、インドメタシンによる胃上皮細胞傷害の発生過程において、細胞内還元型グルタチオン(GSH)含量の低下がみられるが、LMPを前処理しておくとGSH含量の低下が抑制されることが判明した。近年、ヘムオキシゲナーゼは抗酸化物質の産生を触媒することなどから、炎症の終結因子のひとつとして注目されているが、誘導型のヘムオキシゲナーゼ(HO-1)は分子量32Kである。LMPにより誘導される蛋白質のひとつであるp35は誘導合成される点や分子量がHO-1に類似していることや、上述したようにLMP処理細胞では酸化抑制機構が働いた点を考慮すると、p35がHO-1である可能性が推察された。そこで、p35とHO-1との異同について検討した。胃上皮細胞のHO活性を測定したところ、通常は活性が非常に低値であったが、LMP前処理細胞では有意にHO活性が増加した。蛋白質合成阻害薬シクロヘキシミドやmRNA合成阻害薬アクチノマイシンDはLMPによるp35の合成を阻害するが、同時にLMPによるGSH含量低下抑制に対して阻害効果を示した。さらにこれらの薬物はHO活性の発現を強く阻害した。以上の結果はLMPによりHOが誘導されることを示唆している。来年度では抗HO抗体によるウエスタンブロットを行い、HO-1が実際に誘導されるが否かについて、検討を加える予定である。
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