申請者は、脳のカリクレイン・キニン系遺伝子発現とリポ多糖類による誘導機構を明らかにする目的で研究を行った。リポ多糖類を脳室内に投与し、脳に炎症を惹起すると、脳においてキニン前駆体タンパク質であるT-キニノーゲン、高分子キニノーゲンmRNAが増加する。そこで、これらの遺伝子の増加が、脳のどの細胞において起きているのか、また、キニノーゲンmRNAの増加にどのような因子が関与しているかについて検討した。 1. リポ多糖類を脳室内投与したラット脳の組織切片をT-キニノーゲン抗体により組織染色したところ、脈絡叢の上皮細胞に強いシグナルが観察され、大脳皮質、小脳など他の領域にはこのようなシグナルは観察されなかった。 2. ラットの髄膜・脈絡叢培養細胞において腺性カリクレイン、血漿カリクレイン、キニノーゲンのmRNAがRT-PCRによって検出されたが、アストロサイト、神経細胞においては、これらの発現は低いレベルであった。 3. マウスの脈絡叢株細胞ECPC4細胞を用いて、in vitroの系でキニノーゲン誘導の機構に関して検討を行った。その結果、リポ多糖類添加によって、低分子キニノーゲン mRNAが顕著に増加し、インドメタシンを添加することで抑制された。またPGE2刺激によっても低分子キニノーゲンmRNAは増加した。 以上の結果をまとめると、脳におけるカリクレイン・キニン系産生の中心は脈絡叢の上皮細胞であり、リポ多糖類投与によって誘導されるキニノーゲンは、脈絡叢上皮細胞自体が、炎症刺激によりプロスタグランジン類を合成分泌し、オートクライン機構を介してキニノーゲンmRNAの発現を冗進すると考えられた。
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