研究概要 |
酵母におけるエンドサイトーシスの解析は、フェロモンおよびその受容体、薬剤排出系や栄養物質取り込み系のタンパク質などを対象として行われてきた。これらのタンパク質は、いずれも培地中の誘導物質の有無によって細胞内への取り込みが誘導される。また、取り込みの最初の過程にEND3とEND4の2つの遺伝子を必要とする。V-ATPaseによる細胞内小器官の酸性化がエンドサイトーシスの過程に果たす役割を研究するにあたり、その作用点がEND遺伝子の産物とは異なる可能性を考えて、まず、以下の2点について検討した。1)これまでの解析に用いられたマーカータンパク質は、調節的な取り込みを受けていると考えることができるが、構成的に細胞内に取り込まれるようなタンパク質はないか。2)END遺伝子に依存する経路以外に取り込み経路はないか。 対数増殖期にある細胞の細胞膜タンパク質を、sulfosuccinimidyl-2-(biotinamido)ethyl-1,3-dithiopropionateで標識し、その後再び培養を行って取り込み反応を誘導する。このとき細胞内に取り込まれるタンパク質を抗ビオチン抗体を用いたウエスタンブロッティングで検索した。用いた標識剤は、構造内にジスルフィド結合を持つので、培養後にグルタチオンを作用させることで、細胞膜に残ったタンパク質のビチオン標識を取り除くことができる。その結果、分子量が約120kDaと100kDaのタンパク質を検出し、それぞれをPmp120p、Pmp100pと名づけた。これらのタンパク質は、いずれも液胞膜画分に濃縮されており、その存在量が液胞内プロテアーゼの有無によって影響を受けることから、細胞膜から液胞に輸送されて分解を受けると考えられる。また、取り込みが低温(0℃)や炭素源の枯渇によって阻害されることから、この反応がエネルギーに依存した能動的な反応であることが予想される。一方、END3遺伝子の欠損は、30分(30℃)の培養時間で取り込み反応を阻害しなかった。 現在、Pmp120pの部分アミノ酸配列を決定している。ここで得られる配列をもとに、Pmp120pの構造遺伝子を同定して特異的抗血清を調製し、より定量的な実験系を確立する。この系を用いて、既存のEND遺伝子やV-ATPaseの欠損変異が取り込みに与える影響を速度論的に解析していく予定である。これらの解析によって、新規なエンドサイトーシスの経路の存在を明らかにできる可能性があると考えている。
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