酵母におけるエンドサイトーシスの解析に用いるための新規なマーカータンパク質を検索して解析することを目的として本研究を遂行してきた。これまでに、その候補としてPmp120p、Pmpl00pを同定したことを報告した。 Pmp120pの部分アミノ酸配列を決定して、その配列からPmpl20pをGaslpと同定した。Gaslpは、酵母細胞における主要なGPIアンカータンパク質の一つであり、細胞壁の生合成過程に機能していると考えられている。Gaslpの細胞内局在性については、細胞膜とする報告と細胞内の未同定の小胞に局在するという報告があったが、細胞のプロテアーゼ処理や、ショ糖密度勾配遠心分画などの実験結果から、少なくともその大部分は細胞膜に存在すると結論した。ただし、全体の約20%程度のGaslpは細胞膜ATPaseと細胞分画で異なる挙動を取ることが観察されたので、この画分の細胞内局在性について、遠心分画、細胞染色などの方法を用いてさらに詳細に検討を加える予定である。 細胞をシクロヘキシミド処理してタンパク質合成を阻害し、処理後のGaslpの細胞内存在量を、経時的に観察したところ、処理後1時間以内にGaslpの存在量が処理前の約20%にまで低下した。この現象は、エンドサイトーシスや液胞のプロテアーゼの欠損株では認められなかったことから、Gaslpは、エンドサイトーシスによって液胞に到達し、そこで分解をされることが示唆された。ところが、新規に合成されたGaslpの細胞内動態をパルスチェイス法で観察したところ、Gaslpは、その半減期が3時間以上の非常に安定なタンパク質であった。この結果は、Gaslpが速やかに分解を受けるという上述の結果とは矛盾する。シクロヘキシミド処理によってGaslpのエンドサイトーシスが亢進される可能性、細胞内のGaslpには速やかにエンドサイトーシスを受ける画分と受けない画分が存在する可能性などについて、今後検討を加え、エンドサイトーシスにおける調節機構を明らかにして行きたいと考えている。 Gaslpは、酵母のGPIアンカータンパク質としては、エンドサイトーシスを受けることが認められた最初のタンパク質であり、エンドサイトーシスの機構、調節を解析する上で好適なマーカータンパク質となると期待できる。また、Pmp100pについては、GASl遺伝子の破壊株にも存在することを認めたので、Gaslpとは異なるタンパク質であることが確定した。今後は、その構造遺伝子を同定して、Gaslpと同様の解析を行う予定である。
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