当初計画に従い、(1)β-ラクタマーゼによる基質加水分解機構-量子化学計算による検討、(2)β-ラクタマーゼによる基質加水分解機構-分子動力学による検証を行った。 (1)についてはβ-ラクタマーゼによる抗生物質不活化機構が、以下のように起こることがわかった。アシル化反応は、まずSer70Oγ→Lys73Nζ→Glu166Oεのプロトンリレーが起き、活性化されたSer70Oγと基質4員環のカルボニル炭素とが結合する。次に、Glu166Oε→Lys73Nζ→Ser130Oγ→(基質5員環カルボキシル基)→基質4員環の窒素のプロトンリレーが起き、4員環が開環しアシル酵素中間体となる。脱アシル化反応は、まずLys73Nζ→Ser130Oγ→(基質5員環カルボキシル基)のプロトンリレーが起き、Lys73が中性となる。水分子がGlu166Oεにより活性化され、プロトンがGlu166Oεに、OH^-が基質4員環カルボニル炭素と結合し、四面中間体となる。次に、(基質5員環カルボキシル基)→Ser130Oγ→Lys73Nζ→Ser70Oγのプロトンリレーが起こり、基質がSer70Oγから脱離していく。最後にGlu166Oε→Lys73Nζのプロトンリレーが起き、resting状態に戻る。脱アシル化反応において、反応モデルを前年度のものにSer130と基質5員環カルボキシル基とを加えた結果、律速段階(四面中間体生成反応)における活性化エネルギーがHartree-Fockレベルで40.8kcal/molから33.3kcal/molに底下し、Ser130と基質5員環カルボキシル基の重要性が示された。(2)については脱アシル化反応の初期状態について分子力場計算を行った。その結果、Benzyl Penicillinの5員環カルボニル酸素とSer130Oγ、Ser130OγとLys73Nζ、Lys73NζとSer70Oγとがそれぞれ水素結合距離にあり、量子化学計算の結果が再現された。
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