研究概要 |
(目的)肺高血圧症の発症過程においては、肺動脈圧並びに右心室収縮期圧の増大が誘発されることから、圧上昇等血行力学的因子による心血管の物理的伸展等の機械的刺激が増大する。単離血管標本を用いた薬理学的機能実験から、機械刺激に対する血管の機能調節機構にチロシンリン酸化が関与する可能性が示唆されている。一方、生体機能調節因子であるサイトカインは、一面内因性病因物質とも目されるが、それらのシグナル伝達機構においてチロシンリン酸化が深く関わることが明らかになりつつある。そこで、誘導型肺高血圧症モデルであるモノクロタリン投与ラットにおいて、サイトカインのシグナル伝達に関連したチロシンリン酸化酵素の循環系組織での発現変動の有無について解析した。 (結果)レセプター型チロシンリン酸化酵素に属する血小板由来増殖因子受容体β鎖(PDGFR-β)mRNAの発現レベルが、モノクロタリン投与群において、何れの臓器でも有意に増強していることが明らかになった(肺動脈:2.7倍、P=0.0136;大動脈:4.9倍、P=0.062;心臓:4.6倍、P=0.0387;肺:1.9倍、P=0.0535;腎臓:2.4倍、P=0.031;末梢血リンパ球:1.9倍、P=0.0055)。また、肺動脈では他の組織に比べてコントロール群においても定常状態のPDGFR-βのmRNAレベルが高い(大動脈の7倍、心臓の6.8倍、肺の1.3倍、腎臓の3.1倍、末梢血リンパ球の2.3倍)ことも明らかになった。一方、Flt3,Flt4,Hek-eph related,FGFR-3,UFO等のレセプター型、およびFes,c-abl,Arg,c-yes,lck,Tec,Fak,Jakl,tyk2等の非受容体型チロシンキナーゼのmRNAレベルには差異は認められなかった。 (今後の課題)次年度においては、PDGFR-β及びそのリガンドであるPDGFを中心に、各種サイトカイン及びその受容体を含めたチロシンリン酸化酵素のmRNAレベルの変動と、タンパクレベルでのチロシンリン酸化の亢進を、病態誘導初期過程から経時的に調べるとともに、薬理学的機能実験と外来遺伝子過剰発現等の分子細胞生物学的手法を組み合わせることにより、肺高血圧発症に伴う遺伝子発現と肺動脈組織の機能変化との関係を明らかにする予定である。
|