ペルフルオロ脂肪酸類(PFCA)はフッ素系界面活性剤として広く利用されている化合物で、齧歯類に強いペルオキシソーム増殖や肝脂肪蓄積をおこす。本研究者らは、これらのPFCAはその炭素数によってラットにおける上記の作用の強さには著しい差があり、炭素数7以下のPFCAはほとんど作用を示さないのに対し、炭素数8以上の化合物には強い作用を持つことをこれまでに明らかにしてきた。 本研究では、炭素鎖長の異なるPFCAが肝細胞に対して直接ペルオキシソーム増殖を誘導する作用がどの程度異なっているかをrat hepatocyte primary cultureを用いて検討した。その結果、炭素数6から10のペルフルオロ脂肪酸はいずれもペルオキシソーム増殖誘導能を有していた。また、化合物間の作用の強さを比較したところ、炭素数10の化合物のペルオキシソーム増殖誘導能がやや低くいほかは、ほとんど差がなかった。そこで、ECDを用いたガスクロマトグラフィーによるPFCAの定量法を開発し投与後の肝臓中の濃度を定量したところ、in vivoにおける作用の弱いPFCAは肝臓にほとんど残留していなかった。これらの事実からペルフルオロ脂肪酸は炭素鎖長によって排泄速度に差があることが示唆された。 上記実験の結果からPFCAの排泄のメカニズムを詳しく検討する必要性が生じた。特に腎臓においては何らかのトランスポーターに認識されて能動的に輸送される可能性が高いものと本研究者は考えている。この点を明らかにするためその道具として放射標識PFCAの合成を試みた。CF3(CF2)6Iを原料とし、メチルリチウムで活性化し、Ba〔14C〕O3から発生させた〔14C〕O2と-100℃で反応させた。硫酸酸性下で結晶化させて濾取し、さらにエーテル/ペンタン混液中で再結晶させた。合成した放射標識ペルフルオロオクタン酸を用いて今後、経細胞輸送やvesicular transportを調べる予定である。
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