研究概要 |
健康に関する情報は地域住民の保健行動に影響を及ぼす最も重要な要因の一つである。しかしこれまでの研究では、情報の「ストック」の側面としての知識やそこから形成される態度に焦点を当てていたため、保健行動の変容の直接的なきっかけとなりうる、行動変容の直前あるいは同時期に取得された情報、つまり情報の「フロー」の側面について十分に検討されていなかった。そこで本研究では、地域住民を取り巻く保健・医療に関する情報の「フロー」を把握し、情報と保健行動との因果関係を解明することを目的とした。 調査対象は川崎市A区に在住する40〜69歳の者-1,800人とした。平成9年と平成10年の2回、郵送法により自記式調査票を配布・回収した。調査項目は予防的保健行動の実施の有無(塩分を控える、運動する、煙草を吸わない、など22種類)、健康に関する情報源への接触の有無(単行本、テレビ番組、家族、友人、など22種類)、属性などであった。 平成9年に772人、平成10年に658人の回答が得られ、2回の調査ともに回答が得られた458人を分析対象とした。実施している予防的保健行動の数(平均値士標準偏差)は、平成9年で13.8±4.3平成10年で13.7±4.3、接触した健康に関する情報源の数は、平成9年で9.7±4.2、平成10年で8.1±3.9であった。平成9年、平成10年ともに、保健行動の数と情報源の数との正の相関がみられた。平成10年の保健行動の数を従属変数とした重回帰分析を行った結果、平成9年の保仙行動の数、平成10年の情報源の数の影響がみられたが、平成9年の情報源の数の影響はみられなかった。この結果は、より最近に接触した情報の方が保健行動に及ぼす影響が強いことを示しており、情報の「フロー」の側面が行動変容のきっかけとしての役割を果たしていることが示唆された。
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