遺伝性網膜芽細胞腫患者の組織を用いた解析より、ヒトセロトニン受容体遺伝子は母親由来の遺伝子のみが発現し、母親由来の遺伝子のみの上流域がメチル化を受けていることが明らかとなり、セロトニン受容体遺伝子のゲノムインプリティングの可能性が示唆されてきた。患者由来の組織では、解析に適当な症例数も少なく、マウスのような交配実験などが不可能なため、ゲノムインプリティングの詳細な機構の解析には限界がある。本研究では、マウスの遺伝学的解析を用いることにより、セロトニン受容体遺伝子のゲノムインプリティングの機構を行った。近交系(C57BL/6J)マウスおよび野生(PWK)マウスのセロトニン受容体遺伝子のcDNAをPCRによって増幅し直接DNA配列を決定し系統間で異なる配列を探したところ、数カ所に多型を見つけることができ、特にエクソン1には制限酵素Sphlによって識別できる遺伝子多型を見つけた。これにより、C57BL/6Jマウスと野生マウスPWKを交配することにより、遺伝子がどちらの親に由来して発現しているかを調べることが可能となった。これらのF1マウスを解析した結果、ヒトと同様に母由来の遺伝子のみが発現していることが明らかとなった。また、網膜芽細胞腫の増殖に関連していることから、目における発現を調べたところ、F1の胎児の目でのみ発現し、生後は発現が認められず、やはり、母由来の遺伝子のみが発現していた。このことは網膜芽細胞腫が胎児性の腫瘍であることと考えあわせると非常に興味深い。
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