血管新生は固形癌の増殖、転移、糖尿病性網膜症や虚血性心疾患などの炎症に伴って見られ、病態を増悪させる原因となると考えられている。ところで、これらの炎症病態時には既存の血管及び新生血管周辺にマクロファージや好中球の浸潤が見られることが報告されている。しかし、血管新生の誘導にこれらの炎症性細胞がどのように関わっているのか不明な点がある。 炎症性細胞は活性化されることによってスーパーオキサイドや過酸化水素(H_2O_2)のような活性酸素種(ROS)を放出し、生体に様々な影響を及ぼしていると考えられている。しかし、H_2O_2が血管新生に影響するか否か知られていない。そこで、本実験ではウシ大動脈血管内皮細胞(BAECs)を用いたin vitroの血管新生アッセイ系において、低濃度のH_2O_2が血管新生を刺激することを示した。 また、血管新生の伸長過程において、プロテアーゼ活性の上昇と細胞遊走及び増殖は主要なステップである。近年、転写因子ets-1がマトリックスメタロプロテアーゼ-1のようなプロテアーゼ遺伝子発現を調節することにより、血管新生を調節することが示唆されている。そこで、さらにH_2O_2誘導性血管新生におけるets-1の関与を検討した。 BAECsに対する0.01〜1μMH_2O_2の添加は血管新生を誘導し、内皮細胞の増殖および遊走も促進した。また、これらの促進作用はカタラーゼによって抑制された。さらに、1μMH_2O_2はBAECsにおいてets-1mRNAの発現を増強しH_2O_2誘導性血管新生はets-1アンチセンスオリゴヌクレオチドによって完全に抑制された。以上の結果から、低濃度のH_2O_2が内皮細胞の増殖及び遊走を促進し、血管新生を刺激することが考えられた。また、H_2O_2誘導性血管新生は転写因子ets-1を介して制御されている可能性が示唆された。
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