研究概要 |
糖尿病の合併症の1つである血管障害と一酸化窒素合成酵素(NOS)の機能異常の関係を明らかにするために、今年度は、ウシ大動脈由来培養内皮細胞を用いて次の3点について検討した。 1.NOSの補酵素であるテトラヒドロバイオプテリン(BH4)含量の低下により、NOSから一酸化窒素(NO)の代わりに活性酸素が遊離するか? 2.活性酸素種の1つである過酸化水素による細胞障害の過程でNOS活性がどのような変化をするか? 3.BH4含量の低下が過酸化水素による内皮細胞障害を増悪するか? 内皮細胞へのBH4合成の阻害剤である2,4,-ジアミノ-6-ヒドロキシピリミジン(DAHP)の添加は、活性酸素の遊離を促進し、その活性酸素の遊離は、BH4合成の基質であるセピアプテリンあるいはNOS阻害剤であるニトロアルギニンにより完全に抑制された。これらの結果は、細胞内BH4含量の低下によりNOSから活性酸素が遊離することを示している。興味あることに、過酸化水素による細胞死に先行して細胞内Ca^<2+>濃度が増加し、NOSが活性化された。また、細胞内BH4含量の低下は、過酸化水素による細胞障害を増悪し、この障害は、BH4含量の増加あるいはニトロアルギニンにより抑制された。以上の結果から、内皮細胞内BH4含量の低下によりNOSから活性酸素が遊離すると、及びBH4含量の低下によるNOSの機能異常が活性酸素による細胞障害に関与することが明らかとなった。今年度は、糖尿病による血管障害に上記の機構が関与するか否かについて、ストレプトゾトシンによるラット糖尿病モデルを用いて検討する予定である。
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