血清IgGの糖鎖はN-グリコシド結合でFc部分に付着し、IgGの立体構造を維持している。IgGの糖鎖は病態や加令に伴い変化に富むため、IgGの胎盤通過性にも影響を与える可能性がある。そこで本年度はまず臍帯血IgGの糖鎖を分析、成人との比較を試みた。45名の母親から同意のもと分娩時に臍帯血を採取した。母体の平均年齢は29.9±4.4歳(平均値±SD)であった。新生児は男児24例、女児21例(満期産41例、早産4例)で平均在胎週数は38.9±3.0週(満期産39.7±1.1週、早産30.7±4.1週)、出生時体重は2914±64g(同3043±487g、1598±572g)であった。また対照群として健常成人11名(26.5±5.6歳)からも血清を採取、IgGを精製しrN-グリカナーゼ処理を行い、遊離したオリゴ糖にFMOCを標識、アミド80カラムでHPLC分析を行った。 その結果、臍帯血IgGでは、非還元末端側にガラクトースをもつ糖鎖の割合が成人より有意に高いことが判った。すなわちガラクトースをもたない非ガラクトシル糖鎖に対するガラクトシル糖鎖の割合(G/N比)は、成人で1.6±0.6であったが、臍帯血では4.3倍の6.9±4.4であった(p=4.87×10^<-6>)。在胎週数とG/N比の間に明らかな相関は認められず、出生時体重、血清IgG濃度や母体年齢とG/N比の聞にも明らかな相関を認めなかった。 臍帯血にみられたガラクトシル糖鎖の増加は、過去の報告にある1歳から70歳までの結果よりもはるかに高い。ガラクトシル糖鎖をもつIgGは血清中の半減期が非ガラクトシル糖鎖よりも長いと報告されているため、ガラクトシル糖鎖の著明な増加は、新生児の感染防御の上で有利な機構と推定された。現在、同方法にて母児間のIgG糖鎖比較が進行中である。
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