Helicobacter pyloriの病原因子として、一部の株が保有するcag pathogenicity islalld(cag PAI)による宿主胃粘膜上皮細胞からの炎症性ケモカインinterleukin-8(IL-8)誘導能が注目されている。これまで福岡大学病院臨床検査部で得られた臨床分離株における検討で、胃癌細胞株(AGS)からのIL-8誘導能はcagA陽性株と陰性株では20倍以上の差が認められた。一方、分離株の空胞化毒素活性の有無とIL-8誘導能との間には一定の相関を認めなかった。また、cagA陽性群の中でも最大で約5倍のIL-8誘導能の差異を認めた。以上の株についてさらに細かく検討すると、cagA陰性株ではcagIの全部分およびcagIIの大部分が欠落していた。cagA陽性群の中でIL-8誘導能の低い株は、cagIの部分的な欠落が認められた。IL-8誘導能の低い株は全て胃癌や胃十二指腸潰瘍病変を有しないnon-ulcerdyspesia患者からのものであり、cag PAIによるIL-8誘導能と病原性との関連が改めて確認された。標準株で存在が報告されているIS605は約4割の株で認められたが、cag PAIの存在や病原性との間に一定の関係は認めなかった。また、高いIL-8誘導能を示す株の分離株感染患者では抗CagA抗体価を示す傾向にあり、患者血清中抗CagA抗体測定の有用性が示唆された。
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