研究概要 |
本研究は、コミュニケーション技術に対する自己洞察を促し、技術の体験学習を効果的にする教育方法の検討を目的としている。具体的には、1.看護学生と熟練看護婦の視点の移動特性の抽出、2,自己評価学習の指導のための特性比較法の検討、3.学習場面への導入法の検討などである。 被験者を看護系大学生5名(3年生)と臨床経験3〜7年の看護婦3名として、角膜反射法によるアイマークレコーダー(nac社)を装着して眼球運動を測定した。測定場面では、被験者が看護婦役割を、同一の研究補助者がクライエント役割をとり、10〜15分程度の対話場面(ロールプレイング)を実施した。事例やベッド等の使用物品は同一条件に設定した。測定時には、音声入力とビデオ録画を併用し、(1)言語と視点の動きの関連性、(2)姿勢や動作に伴う視点の動きの関連性などの分析も加えた。その結果、看護学生の視点の移動特性には、(1)対象物との距離が遠い、(2)視点はクライエント役の顔面周囲に集まる、(3)考え中や発言に躊躇する場合、あるいはクライエントの言葉に反応して動揺がみられた場合に視点がはずれる、(4)視点の動きに変動の少ない(移動範囲が狭い)者と全体的に変動の大きいパターンをとる者があった、などの傾向が見られた。また、看護婦の視点の移動特性では、(1)対象物との距離が学生に比較して近い、(2)会話の前後半での姿勢の変化(接近して身体的接触をはかるなど)のため対象物との距離が変化している、(3)視点の動きは安定している(顔面やその周囲の停留時間が学生よりも長い)が、ある範囲で移動している、(4)クライエントの反応で視点の動きに変化がみられるが、その変動速度や頻度は学生に比較すると少ない、(5)視点の移動距離が大きい場合には、クライエントの要求に応ずるなど何らかのきっかけがある、などの点に特徴が見られた。この特徴の分析結果を学生にフィードバックし、学生の自己評価シートなどに基づいて、自分の動作や視点の動きを客観的に知ることができる点で、自己評価の一手段として活用できることの方向性が確認された。場面設定や測定環境などの面で改善を加えた上で、授業において自己学習教材として用いる方法を検討中である。また、対象数を増やして継続調査を行うとともに、今回の結果を踏まえて、態度教育で教育的効果が注目されているロールプレイングに関する評価研究への展開を予定している。今回の結果については、日本看護学教育学会に発表し、本学看護学雑誌に成果をまとめる予定である。
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