1.目的:慢性呼器器疾患や呼吸器感染症、特に肺炎が発症しやすい患者に対して、効果的な予防法や進展防止法を看護職の立場から開発することが本研究の目的である。本年度は、これらの研究の一環として脳血管障害の存在や、脳血管障害と慢性気道疾患を併発している病態が、肺炎の様な呼吸器感染症の発生にどの程度関連しているかを知るために、二つの病院に入院している主に脳血管障害患者を対象に過去1年間の肺炎発生状況を調査した。さらに、塵肺症患者を対象に、本症の進展に伴う気道病変の発生を主に面接により調査した。 2.成績 ●脳血管障害患者における肺炎の頻度とその特徴感染防御機能の低下がみられる高齢者においては肺炎のような呼吸器感染症がしばしば死亡の原因になることが知られている。肺炎の危険因子としての脳血管障害の意義を解明するため、主に高齢者の医療を専門とする二つの病院に入院中の60歳以上の患者310例を対象にして、肺炎の発生と脳血管障害、痴呆、嚥下障害、慢性気道疾患などの合併との関連性を検討した。上記入院患者では、男女共に脳血管障害患者が70〜80%を占め、脳血管障害患者の63%が多発性脳梗塞患者であった。脳血管障害患者は、脳血管障害のない患者に比べて、痴呆の合併率や肺炎の発症率が有意に高かった。肺炎の発症率が脳血管障害患者では23%であったのに対し、脳血管障害のない患者では12%であった。また嚥下障害の存在や、気管支拡張症のような慢性気道疾患の合併がみられる脳血管障害患者で、肺炎がより高率に発生していた。これらの成績は、多発性脳梗塞、これに合併する痴呆、嚥下障害、慢性気道疾患、などの諸因子が肺炎の危険因子となり、これらの因子が重なった患者で肺炎が起こりやすいことを示している。 ●塵肺症患者の気道病変に基づく臨床症状塵肺症患者における気道病変に基づく臨床症状の頻度や程度を知るために、徳島県立三好病院受診中の塵肺症患者を対象に面接調査を行った。対象は年齢55〜81才の男性けい肺患者、26例であった。初期の自覚症状は、呼吸困難が主で、痰は1例のみにみられた。現在の自覚症状としては呼吸困難が全症例にみられるが、痰と気道閉塞感が80%の症例にみられた。この成績は、けい肺患者では、発病初期には末梢肺の病変による症状が主体であるが、病期の進展に伴い気道病変による慢性気管支炎様の症状が出現することを示している。痰は主に粘液性痰であった。この慢性気管支炎様の症状を呈する患者の80%がけい肺の原因となった職業に就労時に喫煙をしていた。喫煙が慢性気管支炎の最も重要な原囚であることから、大部分のけい肺患者の気道病変の成立には、無機粉塵の吸入と喫煙の両者が関与していると考えられる。
|