研究概要 |
本研究では,在宅中心静脈栄養法(以下HPNとする)を行う進行がん患者の日常生活の実態を把握することを目的とし,参加観察と面接により調査し,帰納的分析を行った. 対象は,2大学病院でHPNを行う患者20例で,平均年齢53.6歳,男12例女8例,疾患は全て進行消化器癌だった.継続中の3名を除く17名のHPN継続期間は平均64.4日で,14名はHPN開始時から6ヶ月迄に病院で死亡した. 〈HPN導入時〉導入は全て入院で行い,平均入院期間は35.4日だった.身体的には,全て対症療法を受けていたが,日常生活動作は自立していた.18名が医療者の勧めをきっかけとし,説明直後は衝撃を受けたが,その後は葛藤しながら受け入れる努力をしていた.このようなHPNの受け止めには,身体状況,病気や病状の認識,家族や医療者のサポート,経験による自信の確立が影響していた.人間関係の機会は,病院内での退院へ向けたサポートが中心となり,家族や医療者への信頼は高まり関係は密になった. 〈HPN継続中〉全て外来管理下で継続された.身体的状況は徐々に悪化し,症状コントロール困難を理由に14名がHPNを中断した.心理的には,HPNに慣れても不安や拘束感は持続し,さらに病気や病状,症状,成り行きに対する不安が増強した.心身への自信のなさから,活動はベット中心に制限された.家族以外の対人関係は減少し,家族の負担は増加した.医療者との交流は,孤立する患者や家族の日常的な対処を支える上で重要と認識されていた.様々な葛藤下でも家の方が自由であり落ち着けると感じていた.以上の結果より,進行がん患者におけるHPN導入時の意志決定では,迅速で十分なインフォームドコンセントが重要であると考えられる.また,HPN継続中には患者の身体的心理的負担は増大するが,社会から孤立し,サポートは減少する傾向があり,緊急事態も予測したより一層の支えが必要になることが示唆された.
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