一般に地域に生活する人にとって、周囲の人々との対人関係は存在し、かつこれらは多少の「いわゆる問題」を内包しつつもある平衡状態にあって多くは顕在化することが無く過程している。そのような平衡状態をを保つ比較的少数人数からなる系において、これらの均衡が崩れ第三者の介入を必要とするようになった、すなわち顕在化した、状態が問題として保健所へと持ち込まれるという枠組みが本研究の考え方の基礎となっている。そして、このような不均衡を来した地域における系は少人数からなっており、これらの中に精神障害者が含まれており保健所へと何らかの問題の解決が求められる場合に精神保健の相談となる、という大枠での定義に従って、保健所精神保健活動事例をデータベースともとに見直した。従って、保健所へと持ち込まれる相談時には不均衡を来した系における自己解決能力の閾値を超えており、相談後には一般的に系は事前の状態と質的に異なっている場合をも含めて均衡状態へと戻っていると考えた。ここにおいて重要な点は精神障害者自身への直接的サービスないしは処遇が、不均衡状態の改善とどの様な関係にあるかである。今年度の研究の範囲内では、保健婦の活動の力点が主として系の不均衡の主たる原因となる対人関係上の問題にあること、また、この対人関係上の問題の主たる原因は必ずしも精神症状に由来するものではなく両者の相対的な力動によるものであること、及び少なくとも対人関係上の問題は精神障害者にとっても家族を含む地域の人々の精神衛生状態にとっても好ましくない状況をもたらす事が確認できた。また、精神障害者側における援助の結果として、5段階評価法で生活の技能をみたところ、有意に好転している事が明らかとなった。次年度はこれらの関連を探ることを主目的とし、地域のいわゆる問題解決と精神障害者の処遇の関連及びそのあり方について明らかにしていく予定である。
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