ショ糖摂取ラットにおける、肝臓脂質含量とグルコース-6ーリン酸脱水素酵素、リンゴ酸酵素、クエン酸解裂酵素、脂肪酸合成酵素およびアセチルCoAカルボキシラーゼの活性の増大が、食餌ミオイノシトールおよびフィチン酸により抑制されることを実証した。一方、ミトコンドリアの脂肪酸分解酵素活性や血清脂質含量の食餌ミオイノシトールやフィチン酸による影響は、見られなかった。以上の結果より、ショ糖摂取ラットにおける肝臓脂質蓄積に対する食餌ミオイノシトールおよびフィチン酸の抑制効果は、脂肪酸合成関連酵素活性の抑制が主たる原因であると推定した。次にショ糖摂取とは異なり、脂肪酸合成の促進ではなく、肝臓からの脂肪の放出の抑制の結果、肝臓に脂質を蓄積させるオロチン酸摂取に対する食餌ミオイノシトールおよびフィチン酸の効果を検討した。その結果、食餌ミオイノシトールおよびフィチン酸はなんらの影響も示さなかった。これらの結果より、ミオイノシトールとフィチン酸の肝臓脂質蓄積抑制効果は、脂肪酸合成の促進による場合に発揮されるものと推定した。また、著者は平成9年7月から9月の間、フィチン酸に抗癌作用のあることを実証した米国メリ-ランド大学Shamsuddin教授のもとで、人の肝臓癌細胞(HepG2)においてもフィチン酸がグルコース-6ーリン酸脱水素酵素等の脂肪酸合成関連酵素活性を抑制することを実証した。グルコース-6ーリン酸脱水素酵素は、脂肪酸合成に必要なNADPHを供給すると共に、核酸合成に必要なリボースを供給するペントースリン酸側路の律側酵素でもあることから、フィチン酸の抗脂肪肝作用と抗癌作用はこの酵素の抑制が共通に関係しているのではないかと推定した。平成9年度に予定していた組織ミオイノシトール含量や代謝、脂肪酸のエステル化に関連した酵素活性および体脂肪含量などの検討は、平成10年度に行う予定である。
|