澱粉の物性制御を目的として脂肪酸が澱粉に及ぼす影響を検討するために、脂肪酸導入澱粉を調製し脂肪酸ごとの取り込みの違い及び熱的性質を測定し、澱粉粒中のアミロース脂肪酸複合体の形成状態について検討し、以下の結果を得た。 1. 脂肪酸導入量 取り込まれる脂肪酸量は、澱粉の起源及び脂肪酸の種類によって異なった。トウモロコシ澱粉が最も多く導入され、次いでキャッサバ、馬鈴薯であり、脂肪酸ごとではミリスチン酸が最も多く、炭素鎖が長い方が少なかった。また、同じ炭素鎖でもオレイン酸は多くリノール酸は顕著に少なかった。アミロースに導入した場合は、オレイン酸が顕著に多かったが、これはアミロースのコンフォメーションがランダムコイルであることと関連があると考えられた。 2. 脂肪酸導入の澱粉の糊化特性 フォトペーストグラフィでは脂肪酸導入による特徴は観察されなかったが、アミログラフィでは、粘度立ち上がり温度および最高粘度が上昇した。また、最高粘度及びブレークダウンが減少し、粘度特性が変化することが認められた。 3. 示差走査熱量計(DSC)による熱的性 トウモロコシ澱粉のみ脂肪酸導入により、高温側にアミロース脂肪酸複合体の融解ピークが観察された。そのピーク温度は、炭素鎖が長くなると僅かに高温側へ移動し温度幅も狭く、ピークが明瞭となった。一方、不飽和脂肪酸では、ピークが低温へ移動し、ピーク幅が広くなったことから、導入された脂肪酸は澱粉粒内でアミロースと複合体を形成し、その形成状態は熱的性質で観察することができた。また、馬鈴薯およびトウモロコシアミロースに脂肪酸を導入し熱的性質を検討したところ、澱粉粒で得られた傾向と同様であり、これより熱変化の大きさはアミロースとヘリックス内に取り込まれた脂肪酸の挙動を捉えていると考えられた。
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