実際の衣服の着用状態を考えると、皮膚面と単一な布素材との摩擦も重要であるが、複数枚積層された布との総合的な摩擦現象も着心地や素材の触感を把握する上で検討しておかなければならない問題と考えられる。以上の点から、本研究では重ね布の複合的な摩擦感特性について、単独の布特性を踏まえ検討を行う。 試料は、織物とニットをあわせて32種類の布地(以下試料A群と呼ぶ)と、上に重ねる布地として裏地のように使用されるものから厚地のものまでの織物計13種類の布地(以下試料B群と呼ぶ)を選択した。これらの試料について、SMDも測定できるように改造した摩擦感テスター(KES-SE:カトーテック製)を用い、単独およびA群の試料の上にB群の試料を重ねた状態でMIU、MMD、SMDを測定した。MIU、MMD測定時の摩擦子には、指紋をシミュレートしたもの(摩擦子A)と試料群Bを取りつけたもの(摩擦子B)を使用した。 摩擦子Aによる重ね布のMIUおよびMMDは、上に重ねたB群の布の摩擦特性の影響が表れる傾向がみられた。SMDの場合もMIUと同様、上側の布の影響が認められたが、SMDの大きな布地の上に重ねた場合、下側の布地の影響が現れ、上側の布地のSMDより高い値となる。摩擦子Bの場合はAと比べてMIUは高くなる。 重ね布の摩擦感特性は、MIU、MMD、SMDだけでは評価しきれないと思われたため、MMD、SMD測定時に得られる波形信号を使用して周波数解析を行った。単独布と重ね布のMMD、SMD測定時に得られた波形信号のパワースペクトルから、重ね布と上側の布のパワースペクトルの形状が非常に類似している場合と、A群、B群両方の試料のMMD、SMD変動における特徴的なピークが共存している場合がみらた。
|