天然染料染色布の劣化に関わりのある、布の酸性化の現象について検討を行った。 まず、未染色布や染色布の酸性度を評価する方法として、布のpHの測定法について検討した。抽出pHにおける抽出時間や浴比の影響、表面pHにおける表面不均一性の影響などを調べた。湿潤させた試料布を平面型電極に直接接触させてpH値を得る方法は、簡便であり、布の酸性度の実験的な尺度として十分有用であると結論づけた。 次に、この方法を用いて種々の劣化処理布のpHを測定し、布の酸性化に及ぼす諸要因の影響について検討した。セルロース系繊維(綿、麻)およびたんぱく質系繊維(絹、羊毛)の未染色布を光照射および熱処理によって劣化させると、いずれの繊維においてもpHの低下が見られた。光照射では低波長紫外線を含む光で長時間露光したものほどpHの低下が著しく、熱処理においても処理時間の増大に伴ってpHの低下が大きくなった。天然染料染色布を露光すると、未染色布の場合よりもさらに低いpH値を示した。染色布においては染色や媒染の過程もpH低下をもたらし、染料と媒染剤の組み合わせだけでなく、先媒染か後媒染かといった染色工程の違いによってもpHが変化することがわかった。このように、布の酸性化をもたらす要因のうち、外的な要因である染色・媒染や環境からの汚染などの影響を明確にした上で、内的な要因である劣化生成物による布の酸性化についてさらに検討を進める予定である。
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