平成9年度は、日本窯業の黎明と考えられる須恵器の「還元焔焼成・還元雰囲気冷却」技術の復元を目的として、主として以下の研究を行った。 1平成9年7月22〜24日、12月9〜12日、平成10年3月13〜16日の3回にわたり倒焔式実験窯で薪燃料による焼成実験を行い、須恵器の還元色(青灰色)を得る焼成技術の探求とあわせて、温度域・焼成時間・酸素供給量などのデータ化を図った。また、胎土中の雲母の高温下における崩壊進行状況を検証した。 2分析用の考古遺物として、6〜9世紀の代表的な須恵器生産遺跡である福岡県大野城市牛頚窯跡群、大阪府泉北地域陶邑窯跡群、茨城県土浦市栗山窯(新治窯跡群)の資料提供を受け、実験窯における焼成サンプルとともに、岡山理科大学理学部に分析を依頼した。現在、X線解析による胎土中の鉱物組成の種類と量・金属結合状態および焼成温度、色スペクトル分光による色階調、炭素の吸着量などを分析・検討中である。 この結果、1に関しては、「還元雰囲気冷却」技術の確立を得るとともに、焼成後の閉塞状況の差異が表面発色を決定し、酸素流入量の少-多が青-赤、冷却段階の高温時間の短-長が淡-濃、に対応することが明らかとなった。したがって、須恵器と中世陶器の発色は冷却時の意識的操作によると考察される。2に関しては分析中であるが、従来酸化第一鉄によるとされていた還元色は、実際は3価鉄と2価鉄に共存する還元途上の状態であり、窯内が「酸化雰囲気」になれば鉄分の微妙な挙動により中世陶器の赤錆色に変わりうるものと予察される。 平成10年度は、中世陶器の「還元焔焼成・酸化雰囲気冷却」技術を復元するとともに、焼成時のガス・サンプリング分析などを加えて自然科学的データの蓄積を図り、遺物と実験の比較から総合的な考察を行いたい。
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