乳酸の細胞膜の通過は単純拡散によるのではなく輸送担体により、中でも乳酸を含むモノカルボン酸輸送担体MCT1について、ここで数年でクローニングされ大まかな構造はわかってきた。しかし運動などにより発現が変化するのかなどはまだ明らかではない。MCT1は心筋や赤筋など酸化能力の高い組織に多く発現し、その発現が「使われる」乳酸の代謝に大きくかかわることが推察される。本研究ではラットの発育や運動によってMCT1の骨格筋や心筋の発現がどのように変化するのかを検討した。5日齢から170日齢までのラットの発育によるMCT1発現の変化はタンパク質レベルでウェスタンブロット法で求めた。心筋のMCT1濃度は10日齢で最も高く以降低下する傾向であり、88日齢以降は10日齢に比較して有意に低い値となった。一方ヒラメ筋ではMCT1の発現は心筋に比較すれば低く、特に10日齢では最も低値となり以降33日齢まで有意に上昇し、33日齢以降はほぼ同様の値となった。このように発育時に心筋ではMCT1濃度は出生後10日程度から低下するのに対し、ヒラメ筋では発現量は心筋より低く、また出生後に次第に増加して成人レベルに達することが示唆された。このことは心筋は胎児期から働いており、しかも胎児期や新生児期には脂質代謝は活発でなく主として糖によってエネルギー供給されていることから、心筋では胎児期に乳酸の利用が高いと考えられていることと一致する。さらにmRNAレベルでMCT1の発現がどのように変化するのか求める試みとして、In situ hybridizationによって、運動によりMCT1発現の変化を明らかにするべく実験方法を確立した。
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