研究概要 |
乳酸は主として作業筋で作られ、血中に出て拡散し多くの組織に取り込まれて代謝される。そこで作業筋から血中への乳酸の放出の段階、及び乳酸を代謝する骨格筋や心筋、肝臓などへの血中からの乳酸の取り込みの段階が、乳酸の代謝を大きく決定している可能性がある。この乳酸の細胞膜通過には輸送担体が関わり、90年代に乳酸輸送担体がクローニングされ、これがピルビン酸の輸送にも関わることから、現在ではモノカルボン酸輸送担体(MCT)と呼ばれている。しかし現時点で運動により乳酸輸送担体の発現や機能がどう変化し、乳酸の代謝がどのような影響を受けるのかはほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、このMCTの中でも心筋やslowタイプの骨格筋に多く、使われる乳酸の代謝に大きく関係するMCT1の発現が、一回の持久的な運動によってどのような影響を受けるかを検討した。方法はオスのWistarラットを用いて、トレッドミル走行により、24m/minの速度で1回の60分間のの運動を行わせた。この運動直後、運動3,6,9,24時間後に筋や組織でのMCT1濃度が高まっているのかを検討した。この運動では運動直後の血中乳酸濃度が平均7.2mMに達することから、乳酸の代謝を高める持久的運動であるといえる。その結果、一回の60分間の走運動直後、運動後において必ずしもMCT1の心筋やヒラメ筋での発現は高まらなかった。一方fastタイプの筋線維も多い足底筋では、一回の運動でも運動数時間後にMCT1の発現がある程度高まる傾向にあることが観察された。したがってもともとMCTlの発現が高くはない骨格筋では、一回の持久的運動でも乳酸の代謝が高進し、MCT1の濃度が高まりうることが示唆された。
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