本研究は、運動時の血流配分や血圧調節を視野に入れつつ、身体運動に対する循環系への効果を明らかにすることを目的として、血管の収縮-弛緩応答に及ぼすトレーニング、脱トレーニングおよび運動不足の影響について検討した。また近年、血管平滑筋への一酸化窒素(NO)の関与が明らかにされ、トレーニングがNO合成酵素(NOS)の活性を高めることによって血管を弛緩させることなどが報告されていることから、動脈血管に対するNOの作用への身体運動の影響についてもあわせて検討した。対象としてWistar系雄ラットを用いた。このラットを無作為に、トレッドミルで走らせたトレーニング群、トレーニング終了から3週間特別な運動を行わせなかった脱トレーニング群、1週間および3週間、尾部懸垂法によって運動不足状態とした2群の計4群に分け、対照には同週齢にラットをおいた。これらのラットを、麻酔後腹部大動脈より約2mmのリング状血管切片を単離し、この切片標本をひずみ計に接続した2本のステンレス・ワイヤーに通し2gの初期張力をかけた。弛緩反応は、予備実験におけるノルエピネフリン(NE)曝露による容量反応曲線から50%有功濃度を算出し、その濃度での先行収縮に対する弛緩を相対値として示した。すなわち10^<-7>MのNE環境下でアセチルコリンを液槽に混和した際の張力を定量し、その容量反応曲線から運動の有無による影響を評価した。さらに、L-NAME(NO合成酵素阻害剤)を混和してACh経由のNOの効果を一旦停止させた後、同様にNOドナーに曝露し、NOによる直接の弛緩効果を観察した。実験の結果、ノルエピネフリンによる容量反応曲線には群間の差は認められなかった。また、AChによる血管拡張は運動量の多い群が有意に低値を示し、NO供与体による変動も同様の結果を示した。
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