本年度は、高校運動部員の自我発達の一般的特徴を明らかにすることを目的とした。 まず、高校1・2年生、運動部員(436名)、非運動部員(154名)を対象に、Lovingerらの文章完成テスト実施し、学年別・性別に運動部員と非運動部員の自我発達得点を比較した。その結果、2年生の女子を除くと運動部員の方が非運動部員より自我発達得点が高いことが示された。 次に、競技レベルと自我発達の関係を明らかにするために、運動部員の競技レベルを低・中・高の3群に分割し、男女別に3群の自我発達得点を比較した。その結果、男女ともに3群の自我発達得点に顕著な差は見られなかった。また、実力発揮と自我発達の関係を明らかにするために、自我発達得点が高い群(上位25%、高発達群)と低い群(下位25%、低発達群)を男女別に抽出し、両群の実力発揮度を比較した。その結果、男女ともに高発達群の方が低発達群よりも実力発揮度が高かった。 さらに、高校運動部のどのような体験が自我発達を促進するかを検討するために、「チームメイトとの関係」などの4つのスポーツ領域での事象と、「勉強」などの8つの日常生活領域での事象を設定し、個々の事象に対する「悩みの程度」と「解決のための努力の程度」を調査し、自我発達との関連について検討を加えた。その結果、男子においては自我発達の高発達群が低発達群よりも、全般的に悩みの程度と努力の程度が高かった。一方、女子においては、全般的には両群の悩みの程度は両群でほほ同水準であったが、努力の程度においては高発達群が低発達群よりも高得点を示していた。これらのことから、運動部生活での危機事象における解決に向けた努力の程度、すなわちエリクソンの言う危機事象に対する高い相互性が高校運動部員の自我発達を促進すると推測された。
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