研究概要 |
本研究は暑熱環境下歩行時に水を含ませたスポンジで顔面および頭部を拭くことにより,発汗や体温上昇および飲水量を抑制できるか否か,また生体への負担度を軽減できるかどうかを明らかにすることを目的として行われた. 大学男子陸上長距離選手を被検者とした.被検者は室温30℃,相対湿度60%に調整された人工気候室内に設置されたトレッドミル上で60%VO2maxに相当するランニングを120分間持続した.ランニングの20分毎に給水(水温13℃)および水温13℃に保たれたスポンジにより,研究1では頭部を,研究2では頭部および大腿部を拭き冷却することとした.またコントロール実験ではスポンジでの身体冷却は行わなかった. 本研究の結果で興味深かったことは,身体冷却により発汗量が有意に減少したにもかかわらず,運動中の鼓膜温の上昇や給水量,運動後の血中乳酸が抑制される傾向にあったことである.発汗は血漿量の減少,ミネラルの損失などが伴うため,体温調節に役立たない無効発汗量の増加は生体に望ましいことではない.また運動中には自由に飲水しても失われた水分を補うことができない現象,いわゆる自発的脱水が生じているため,給水量の過度の増加は胃内の水分残留量が多くなり,胃部膨満感を招くこととなる. これらの結果より,暑熱環境下走行時に含水スポンジにより身体を冷却することは,無効発汗量および過度の給水量の増加を抑制し,運動パフォーマンスの向上や,熱中症予防に役立つものと思われる.しかし頭部だけでなく脚部を冷却することによって,冷却効果が増すというような実験成績は,本研究では得られなかった.
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