研究概要 |
廃用により低下した筋機能の回復に及ぼす運動の効果について,若年ラットを用いて検討した.4-5ヵ月齢のF344系雌ラットを用いた.尾部懸垂ににより後肢筋の廃用状態を惹起した.動物を,対照群,懸垂群,懸垂回復群,懸垂運動回復群に分け,1群あたり5〜7匹の動物を割り当てた.懸垂運動回復群には,懸垂解除後3週間にわたって,等尺性運動を1日1回,30分間,週6日負荷した.3週間の懸垂により,ヒラメ筋の最大筋力は約70%低下した.この筋力低下は,筋重量低下(40%)を大きく上回った.したがって,懸垂により筋重量あたりの最大筋力は低下した.懸垂解除後3週間の通常飼育により最大筋力の改善がみられたが,対照レベルにまで回復せず(対照群の約80%),筋重量あたりの最大筋力は低値のままであった.懸垂により単収縮の時間経過の短縮がみられたが,懸垂解除後3週間で対照レベルにまで改善した.懸垂ヒラメ筋では,筋横断面積あたりの細胞間隙の増加やcore-like lesion,ragged-red fiberなどの病理学的異常線維の出現を認めた.懸垂解除3週間目のヒラメ筋では,中心核線維や分裂線維がみられ,回復期間における筋の再生を示唆する結果が観察された.懸垂解除後の回復期間における等尺性運動の結果は,生理学的,病理組織学的特徴において認められなかった.極度の廃用状態により,遅筋のヒラメ筋では,筋線維の萎縮だけでなく,変性が生じ,形態的萎縮を上回る筋力低下を生じること,廃用状態解除後の筋の回復に関しては,非荷重から再荷重に伴う筋損傷が生じ,筋機能の回復を遅延させる原因となりうること.回復期間における等尺性運動は,廃用により低下した筋機能の回復を促進することはできなかったが,少なくとも回復を遷延させるマイナスの影響はないと考えられる.来年度は老齢期における同様の検討を実施し,若年期との比較検討を行う.
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