本研究における今年度の目的・計画は、学習者の認知構造を習熟度や生活史の観点からカテゴリー化することであった。しかし、文献調査の結果、様々なスポーツ状況の中では、認知構造を中心にしてそれを様々な観点からカテゴリー化するよりも運動の習熟度を中心にして認知構造の変化を明らかにし、段階づける方が最終的な目的である運動技術診断の方法論を構築するために有効であることが明らかとなった。さらに、運動形成における習熟度を考えた場合、運動の粗形成段階と精形成段階並びに最高精形成段階においては目標図式が異なることが明らかとなり、同一の次元で扱うことができないことも明らかになった。今回の研究計画の中で、この両方の認知過程の変化を段階づけていくことは困難と考えられたために、問題の照準を運動の粗形成過程に絞って仮説を設定した。文献調査の結果から学習者が運動の粗形成を獲得し、それを定着していくまでの認知構造の変化が7段階に区別できるのではないかという仮説が設定され、それを検証するために器械運動における後転とびが課題として選択され、学習者の粗形成段階の獲得並びに定着の過程が観察され、さらにその過程における認知構造の変化がインタビューや質問紙によって調査された。調査の結果、仮説が証明された。最終的に今年度の研究で明らかとなったことは、学習者が運動の粗形成を獲得し、定着させていくまでの認知構造の変化は、全体的イメージの獲得段階、運動の分節化による意識ポイント形成の段階、意識ポイントのイメージ化と安定の段階、かなめの意識ポイントの把握段階(粗形成の獲得)、イメージに基づく運動実施の良否の判断が可能な段階、安定化へのかなめの意識ポイントの変容段階、安定化へのスキーマ形成の段階に分けられるということである。ただし、これら7段階の名称については、より理解しやすい名称へ変更する余地があると考えられる。
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