本研究は、1979年〜1983年にブラジル北東部(ノルデステ)を襲った歴史的な大干魃を主な事例に、干魃の時間・空間的拡大過程の復元と、その地域差に配慮した適切な干魃対策のあり方を検討することを目的とする。そのための第一段階として、今年度は同期の降水量分布の変動性と地域差、干魃非常事態地域の時間・空間的拡大過程、干魃が農業生産に与えた影響の3点について分析を行った。その結果、以下の諸点が明らかとなった。 1.ノルデステ各州の年間降水量について、平常年の1978年と干魃年の1979年〜1983年を比較すると、確かに干魃年の年間降水量は平常年に比べていずれの年も下回っている。しかし、両者の差はさほど大きなものではなく、干魃を引き起こす主要な要因が総年間雨量ではなく、降水量分布の変動性にあることを示唆している。とりわけ、雨季の降水量分布が干魃の発生とその強度、被害を予測するうえで極めて重要であり、そのためにも降水量の日々変動を瞬時に把握・解析できる多地点雨量観測システムの整備が重要である。 2.干魃非常事態地域の分布、面積、被災居住人口を4期の時間断面について分析し、干魃の時間・空間的拡大過程を復元した。ノルデステ全体に占める干魃非常事態地域の面積は、1979/4/15〜1980/2/28期の32.5%から、1980/5/15〜1981/5/31期の84.3%、1981/6/1〜1982/5/31期の86.8%、そして1982/6/1〜1983/5/31期の83.8%へと推移した。また、各期の干魃非常事態地域の分布には、州(地域)による顕著な差異が認められた。 3.ノルデステの干魃被災地では1979年〜1983年期に大きな農業収益の減少をみたが、とりわけ1980年〜1981年期は危機的状態であった。とくに、コメ、フェジョンマメ、トウモロコシ、マンジョカといった本地域の基幹食糧作物が壊滅的な被害を受けたことは、脆弱な熱帯農業システムが抱える多様な問題を提起している。
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