本年度の研究は、以下の二つの研究課題について明らかにするため、主として既存の文献資料の収集・分析と現地調査を行った。 (1)<制度>としての十九夜講が、どの村落からいかなるかたちで空間的に伝播していったのか。 (2)十九夜講が伝播した各村落において、いかなる規模の社会集団が十九夜講の行事を担い、かつ十九夜供養碑の宗教景観をつくりだしたのか。 文献資料の収集・分析、および現地調査のいずれも、いまだ途上であるため、それほど明確な研究実績が得られたというわけではないが、平成9年度末の時点での研究実績の概要は以下のようにまとめられる。 研究課題(1)については、十九夜講伝播の起源村落として、現在の奈良市忍辱山地区が浮かび上がってきた。その村落から、十九夜講がおおよそ同心円状に伝播してゆく過程が、十九夜講碑の紀年銘の分布状態から推測される。 研究課題(2)については、十九夜講行事を担う社会集団は近世の藩制村レベルではなく、それを構成する小地域集団(村組や近隣組など)レベルであるケースが多かった。近世の村組や近隣組といった小地域集団が、十九夜講伝播の担い手となり、十九夜供養碑の宗教景観をつくりだしていったケースが多いようである。
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