研究概要 |
・この研究の遂行において,基本的なフレームワークを確立するために,先行研究の整理を行い,「工業立地の分散化に関する研究動向の覚書」(『瀬戸内地理』第6巻)として公表した。その中では,「空間的分業論」,「地域労働市場論」,そして「グローバル立地論」が重要であることを明らかにした。 ・本研究が対象とした時期は,1985年から1995年の10年間であり,前半はいわゆるバブル経済による好況期,後半はその崩壊による不況期にあたる。この時期における岡山県の市町村別製造業従業者数の動向を分析すると,85-90年が増加,90-95年が減少というパターンが全体的に見出された。これは,全国的な傾向と一致したものである。 ・男女別にみると、男子の場合は85-90年期は全般に増加し,とくに吉備高原,津山都市圏,新見都市圏での雇用成長が顕著である。90-95年期は多くの地域で減少に転じるが,10%未満のマイナスにとどまっている。一方,女子の場合は,85-90年期においてすでに雇用の減少を示している地域が多く存在し,90-95年期では10%以上減少した市町村数が59に上った。減少率は,中山間地域といわれる地域で高い。岡山県の場合,バブル経済による好況は男子の製造業雇用を促進させ,その崩壊による不況は女子,とくに農村域に居住する女子の離職を促しているといえ,女子労働力の「数量的フレキシビリティ」を担う側面が現れたものと解釈される。 ・このような女子労働力の減少は,農村地域に展開していた電気や衣服工業の動向より説明される。これらは,1980年代前半までは,女子労働力を求めて国内農村域に広く展開し,女子就業機会を拡大させたが,1980年代以降の円高等を起因とする日本企業のグローバル展開に伴い,むしろ国内では立地再編が進められた。85-90年期において女子雇用が減少した地域が多数みられた原因は,ここに求められる。そして,90-95年期は不況によって,経営基盤が不安定な工場の縮小や淘汰が進み,大幅な女子労働力の減少が現れたのである。
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