高齢化が進むわが国では、社会を支える生産力の維持と、定年退職後の生き甲斐充足のため高齢者の雇用機会の創造が求められるが、高齢者は何らかの障害を持つのが常態であり、個々人の能力の異質性を前提とした就業・居住環境の整備が必要である。本研究では、身障者と健常者が共に働く大分県別府市のホンダ太陽株式会社を対象として、異質な労働力が、共に働き生活するための物的・社会的環境整備のあり方を、組織的取り組みと時空間制約の分析を通じて検討するものである。まず同社のヒアリング調査により、企業組織による環境整備の検討を行った。得られた結果は次の通りである。 1)自分は健常者より能力的に劣るという学習性無力感からくる否定的自己・集団イメージという認知次元の制約条件を払拭するため、「何より人間」「身体に障害あれど人生に障害なし」といった標語と密な対話という組織的取り組みにより、肯定的自己・集団イメージの醸成を促進し、初期段階の制約の解消を行った。 2)学習機会を与えるOn The Chance Trainingによる訓練と試行錯誤の容認により技能の修得を図り、また身障者の特別扱いを回避し、身障者の隔離管理ではなく、同じラインに健常者と身障者を共に配置した環境整備により、相互協力の創意工夫の誘導を行った。 3)身障者の潜在能力を予期せぬ形で管理職側も学習すること、また予期せぬ問題が突如発生することから、組織自体が絶えざる学習課程にあると認識し、「技術は永遠に未完成」、「規則をできるだけつくらない」といった形で、各自の主体的工夫の余地を残し、個々の異質な才能に適合した労務管理や、状況に応じた対応ができるフレキシブルな組織運営を行っている。 平成9年9月に研究協力者の取締役の死亡により、当初予定の時間地理学的調査の早期実施が困難となったため、新たな研究協力者との協力体制の再構築により実施準備を現在進めており、平成10年度初頭に実施予定である。
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