研究概要 |
海岸沖積低地に発達する泥炭地・泥炭層に関して,泥炭層の堆積速度と泥炭地の拡大過程を定量的に検討した.今年度は,北海道北部におけるサロベツ原野,稚内大沼周辺低地,クトネベツ川低地を対象として,各低地で得られた^<14>C年代資料に基づく泥炭層の堆積速度を検討した.次に,^<14>C年代資料と堆積速度による泥炭層基底年代から,稚内大沼周辺低地における完新世後半の泥炭地の拡大過程を1000年間隔(歴年補正前の^<14>C年代)で復元し,年代別の泥炭地面積を計測した. 今年度には,サロベツ原野における泥炭質堆積物に関して新たに2つの年代資料を得た.豊徳台地東縁のサロベツ川付近において層厚3.80mの泥炭質堆積物最下部の植物片の^<14>C年代が5410±90yrBP(Beta-112794),アチャル台地と豊富山地との間の地域における泥炭質シルト層中の木片の^<14>C年代が,3490±70yrBP(Beta-112793)である.サロベツ原野における泥炭層の堆積速度は,上記の^<14>C年代資料とすでに得られたCu_2年代を用いて合計7地点のボーリングコアについて検討した結果,0.70〜1.84mm/年という値が得られた.稚内大沼周辺低地の10地点とクトネベツ川低地の5地点のコアでは,泥炭層の堆積速度はそれぞれ0.38〜1.31mm/年,0.58〜2.05mm/年であった.調査地点が人工改変地の場合,圧密による泥炭層の圧縮の影響が大きいため,堆積速度は小さく見積もられる.圧密の影響を除けば,北海道北部の完新世泥炭層の堆積速度は0.8〜1.2mm/年程度と考えられた.面積約42.9km^2を有する稚内大沼周辺低地における泥炭地は,約5000BP以降,1000年あたり平均約8.5km^2の割合で拡大した.年代別では3000〜2000BPに約10.0km^2とやや大きく拡大したことが明らかとなった.声問川沿いの泥炭地前縁部の移動(海退)速度でみると,5000〜4000BPと3000〜2000BPで高い値を示し,海水準低下による影響が認められた.
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