上高地梓川上流域において森林植生、地表変動の履歴、林床型の間の関係を探るため、山腹斜面の落葉広葉樹の分布および沖積錐上のトウヒ優占林の分布の二つに着目して研究を進めた。 梓川両岸の山腹斜面にはコメツガ、チョウセンゴヨウ、クロベ、トウヒなどからなる針葉樹林と、シナノキ、ダケカンバ、ブナなどの落葉広葉樹がウラジロモミやトウヒなどの針葉樹と混交する林とがある。これらの分布を中古生層の分布域でみてみると、針葉樹林は開析の進んでいない比較的平滑な斜面に分布し、混交林は主として開析の進んだ急傾斜の斜面に分布していた。林床の状態を比較すると、前者では表層が角レキで構成される斜面からなり林床にササが出現しないところがあるのに対し、後者では表層崩壊によって地表撹乱が顕著ではあるけれどもシナノザサが優占する傾向があった。 次に梓川支流の下又白谷の沖積錐上において、三つの林相・林床型タイプ別にトウヒ優占林の構造を比較した。土石流による全層または林床のみの撹乱は、ササ型林床の林分においてトウヒやウラジロモミの侵入・定着に頁献していた。最近約50年間に土石流の及ばなかった林分では、トウヒの実生の分布は倒木上や根張り上などに限られるが、地表撹乱を受けたところでは大量の後継樹の加入が起こっていた。土石流は年々断続的に流路を変更しつつ本沖積錐上の森林を破壊している。空中写真で判読される林冠破壊部の周囲には下層のみ破壊された林分が存在するので、土石流は林冠破壊部分より広い範囲にわたって森林の更新に影響を持ってきたと考えられる。 今年度の研究で取り上げた山腹斜面と沖積錐はそれぞれ独立した地形システムではない。今後は流域全体を統一する地形システムの中で個々の事例を位置づけ、地表変動-林床-林冠の動的な関係を明らかにしていく。
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